衆人は咽で呼吸をし真人はかかとで呼吸する。
3、不安な気持ち。
季節は立冬を迎え、北からの冷たい風が強くなってきた。村の近くの標高の高い山々はその頂きから少しづつ雪化粧をしちょうど山腹くらいまで山は雪に覆われ白と青空とのコントラストが日に日に美しくなる。夜明けの雪山と青空のコントラストもとても素敵だと思ったが、真珠はどちらかというと夕日に赤く染まった雪山がすきだった。夕日がなくても、だんだんと暗くなる空にうつしださる雪山と空の存在は1分、いやもっと短い数十秒で姿が変わっていく、太陽の光が完全に届かなくなるまでの1時間弱、この不思議な世界が大好きであった。大きな大きな山に比べて自分の存在の小さな感じ、その小さな存在が山と空にいだかれているように感じるのだ。そこには厳しさと優しさが共存しているようだった。
山を見るときに月がみえると必ずルナの事がうかんで、峠でのことがよみがえり本当に又会えるのだろうか?と不安になったり少し悲しくなったりした。ルナは必ず又あいましょうと言ってくれたんだ、信じよう、それだけでいい。もう色々考えるのはやめようと決めてから迷いや不安は少しずつ消えていった。
真珠は6歳の時から一人で暮らしている、村では基本的には皆が助け合い協力し合い生活していたので、真珠も村の人から沢山の愛情を受け育ってきた、本当にいい所で皆様に感謝しなければと感じていた。それでも不安や悲しみに襲われて自分はどうすればいいのか解らなくなる事がある、最初は漠然と空を見上げたあり、山を見たりしていると気持ちが落ち着くのだと思っていた。最初に気づいたのは呼吸であった、落ち着くと深くゆっくりと、その季節の空気を感じながらいる事に気がついた。風の音、冷たさ、匂いが鼻腔を通り胸いっぱいに満たされる、そして身体の隅々の細胞にまで行き届き、ゆっくりと吐ききると恐怖や不安が不思議と少しづつ遠ざかっていく。