toshitaka919のブログ

1000年の時空の旅。

月みれば ちぢにものこそ悲しけれ わが身一つの秋にはあらねど 

 1、出会い 

 11月(霜月)の朔日、どんよりとした冷えた雲の中、東の暗くなりかけた空に向かって雁の群れが飛んでいく。はるかはるか遠く海の向こうから長い旅を終え、疲れた体をこの辺りで休めるのであろう。西の空は僅かに大地を暖める力の残った太陽が沈むのが、かすかに雲の中に感じられる。真珠はこのなんか切なくて少し悲しい感じがなんとなくすきだった。

 都会とは対極のなにもない静かな村だが、他の世界をなにもしらない、話では聞いたこともあったが見たことのない都会は余り想像がつかなっかた。又この村が良いところだとおもっていた。

 東の方角に少し進むと背丈の低い笹に覆われた峠がある。風のとても気持ちの良い峠、真珠はそこで星を眺めるのが好きだった。悲しい時、落ち込んだときによくきて星空を眺めていると、だんだん夜空と自分の心が一体になってきて、自分の存在が宇宙と一つになる感じがすきっだた。もうすぐ冬がやってくる、あと何度峠で夜空をながめられるのであろうう、そう思うと今日は星は見えなくてもお月様なら見れるかもしれない、昨日の夕方東の空に月が浮かんでいた、南中はおそらく暗くなってからだと思い、軽く食事をとり、寒さ対策をして峠に向けて歩き出した。

 歩き出したときまだ月は雲に覆われていて見えなかったが、それでも峠を目指して歩くことにしようとおもった。あれほど賑やかに鳴いていた虫の音はもう聞こえてこない。その分、風が笹をゆらす音が綺麗に旋律を奏でる。なぜだろう今日の笹の奏でる音がいつもと違う、なんていうか優しい音楽を聴いているようだ。そろそろ月は南中に登るころだと思いながら歩いていると、一羽の朱鷺(トキ)が峠の頂辺りで羽ばたいている。朱鷺を見るのは初めてではなかったが、この辺りでも数が減り、どうして朱鷺がこのタイミングでと少しおどろいた。朱鷺のいる方にそっとそっと近づこうと、できるだけ音を立てないように細心の注意を払って歩いていた。朱鷺の姿を見逃して、どこかに飛び立ってしまったのかなと思った時、5メートル先位に一人の女性が真珠のほうを見ている。ちょうど月明かりが美しく女性を照らし出している。上弦の月、弓張月。二人はお互いの距離を少しずつ縮めて歩み寄り、握手できるくらいの距離まで近づいた。

 こんばんは。私の名前はルナ。今日は風が気持ちいいから少し遊びにきたの。月明かりのもと見える女性は、16歳の真珠より少し年上に見えた。